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福島地方裁判所白河支部 昭和54年(ワ)103号 判決 1984年6月28日

原告 本柳正孝

被告 国 ほか二名

代理人 佐藤崇 佐藤毅一 二木良夫 鈴木清司 ほか一名

主文

一  被告加藤利正は原告に対し、金二八四九万〇三七〇円及びこれに対する昭和五四年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告国及び同仙台市に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告加藤利正に生じた費用を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告国及び同仙台市に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自二八四九万〇三七〇円及びこれらに対する、被告国及び同仙台市については昭和五一年七月一四日から、被告加藤利正については昭和五四年五月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告全員)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五一年五月三一日、被告加藤利正(以下「被告加藤」という。)との間で、同人所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、原告を根抵当権者とする次の内容の根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)を締結し、同日仙台法務局受付第四一七四三号をもつてその登記(以下「本件根抵当権設定登記」という。)を経由した。

(一) 債務者 訴外株式会社イトウ興機(代表者訴外伊藤哲、以下「訴外会社」という。)及び訴外伊藤哲(以下「訴外伊藤」という。)

(二) 被担保債権の範囲 昭和五一年五月三一日金銭消費貸借の取引契約、手形債権、小切手債権

(三) 債権極度額 三〇〇〇万円

2  加藤被告は原告に対し、右同日頃、訴外会社及び訴外伊藤の原告に対する前項(二)記載の債務につき連帯保証した。

3  原告は、訴外伊藤に対し昭和五一年五月三一日二〇〇〇万円を、訴外会社に対し同年六月五日五〇〇万円及び同年七月一四日五〇〇万円を(以下「本件貸付」と総称する。)、いずれも次の約定で貸付けた。

(一) 弁済期    同年七月三一日

(二) 利息の割合  月三分

(三) 利息の支払期 毎月末日限りその月分

(四) 損害金の割合 日歩八銭二厘

4  訴外会社及び訴外伊藤から支払済みのあるいは天引された約定利息のうち利息制限法所定の制限を超える分について元金に充当すると、原告の残元金は、訴外伊藤に対し一八九三万三〇八一円、訴外会社に対し九五五万七二八九円となる。

5(一)  原告は、その代理人訴外根本良文及び同鈴木規之(以上三名を「原告等」ということがある。)を通して昭和五一年五月二八日頃、訴外伊藤、被告加藤等から本件土地であるとする土地(以下「現地の土地」という。)を現地で指示されたが、後記6のような本件土地の登記簿謄本、固定資産価格決定通知書の各記載、公図上の形状を見て、本件土地には右指示、説明どおり十分な担保価値があり、債務者、連帯保証人の不履行の場合にも貸付けた金員は全額回収できると信じて、本件根抵当権設定契約を締結し、合計三〇〇〇万円の本件貸付けをしたのである。

(二)  ところが、本件土地の現況は道路で、面積も登記簿の地積のように三〇九二・六三平方メートルもなく、ほとんど担保価値は有しないことが判明し、また、訴外会社は昭和五一年一一月頃倒産し、その代表者訴外伊藤は行方不明であり、被告加藤も無資力であるので、結局原告は、前記残元金合計二八四九万〇三七〇円を全額回収することができなくなり、同額の損害を被つた。

6  右損害は、被告国の公権力の行使に当たる公務員たる仙台法務局登記官及び被告仙台市の同じく公務員たる固定資産価格決定事務の担当係官の次のような過失ある違法な職務行為によつて生じたものと言うべきである。

(一) 仙台法務局登記官

本件土地の地番たる滝道六一番六の土地(以下「滝道六一番六」という。)は、登記簿上もと山林五〇七九平方メートルであつたが、昭和四一年一〇月二七日山林一万四四〇八平方メートルに地積更正され、同年一二月一二日宅地に地目変更され、また、同年一一月一〇日以降数次にわたる分筆を重ねて、最終的に本件土地たる宅地三〇九二・六三平方メートルとなり、公図上は別紙図面のように上下に二分された形状となつたのであるが、本件土地の現況は、同図面の上の部分に相当する部分しか存在せず、かつ道路となつており、地積も三〇九二・六三平方メートルもないにもかかわらず、仙台法務局登記官は、

(1) 前記昭和四一年一〇月二七日の地積更正申請の際、実地調査をせず、申請のままに実際の面積より過大に地積更正をした。

(2) 前記同年一一月一〇日以降の数次にわたる分筆登記申請に際しても、実地調査をせずに、実際の面積と相違する分筆登記をした。

(3) 同年一二月一三日の分筆により滝道六一番六は上下に二分され、重複地番を生じたのに、これをそのまま放置した。

(4) 本件土地の実際の形状とは異なる公図を訂正せず、そのまま閲覧に供した。

(5) 実際の面積と異なる本件土地の登記簿の地積を職権で更正せず、誤つた地積の登記簿謄本を交付した。

(二) 仙台市係官

固定資産の状況を毎年少なくとも一回実施してその評価を行うべきところ、前記昭和四一年一〇月二七日の地積更正、同年一二月一二日の地目変更、同年一一月一〇日以降の各分筆の各場合にも、また昭和四九、五〇年頃本件土地の周囲が市街化した頃にも、いずれも実地調査すべき義務があるのに、これを怠り、その結果、昭和五一年度の本件土地の固定資産価格を、本来二九〇万〇八〇〇円とすべきところを二九〇〇万八八〇〇円と過大に決定評価し、その旨の固定資産価格決定通知書を訴外佐藤馨を通して原告に交付した。

7  よつて、原告は被告国及び同仙台市に対しては国家賠償法一条に基づき、被告加藤に対しては前記2の連帯保証契約に基づき、各自、本件貸付金残元金額相当の二八四九万〇三七〇円及びこれらに対する、被告国及び同仙台市については損害発生日の後である昭和五一年七月一四日から、被告加藤については支払期限の後である昭和五四年五月二日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告国)

1 請求原因1は、原告が本件土地について本件根抵当権設定登記を経由したことは認め、その余は不知。

2 同2ないし4は不知。

3 同5(一)は不知。同5(二)は争う。本件土地の現況は相当程度の面積を有しており、これに対する抵当権の実行は可能であり、また債務者である訴外会社及びその連帯保証人である被告加藤に対しても債権確保のために手段がとれるはずであるから、未だ原告に確定的に損害が発生しているとは言えない。

4 同6(被告国関係についてのみ)は、仙台法務局登記官が国の公権力の行使に当たる公務員であること、滝道六一番六が、登記簿上、もと山林五〇七九平方メートルであつたのが昭和四一年一〇月二七日一万四四〇八平方メートルに地積更正されたこと、同年一二月一二日宅地に地目変更されたこと、同年一一月一〇日以降数次にわたる分筆を重ねて最終的に本件土地たる宅地三〇九二・六三平方メートルとなり、公図上は別紙図面のような形状となつていることは認め、その余は争う。すなわち、

(一) 本件土地は公図上、上下に二分されておらず、一筆の連続した土地である。

(二) 地積更正申請あるいは分筆登記申請の際に実地調査を行うかどうかは登記官の自由な判断に委ねられているのであるから、それをしなかつたとしても何ら違法性はない。

(三) 公図は、地租徴収のために作成された沿革をもつ土地台帳附属地図を承継したものであつて、不動産登記法一七条所定の地図ではなく、現地復元性を持たず、何らの法律的効果を有しない。特に山林部の公図は極めて不正確なものである。公図が現在登記所に保管され、一般の閲覧等に供されているのは、右一七条の地図が整備されるまでの間、登記所の内部的参考資料として保管し、行政上のサービスとして便宜行つていることにすぎない。したがつて、一般に、土地取引に当たつては、公図をそのままうのみにせず、当該土地の所有者や周囲の土地の所有者、現況等を確認するなどしたうえで取引することが不可欠である。

(四) 原告等が本件土地であるとして指示された現地の土地の形状は本件土地の公図上の形状とは全く異つており、原告等は右の形状の著しい違いを顧慮せず、隣接地の地番を確認せずに、自分かつてに現地の土地を本件土地と誤信したもので、右公図の記載と原告の被つたという損害の間に相当因果関係はない。

(被告仙台市)

1 請求原因1は、原告が本件土地につき本件根抵当権設定登記を経由したことは認め、その余は不知。

2 同2ないし5は不知。

3 同6(被告仙台市関係についてのみ)は、仙台市長が本件土地の昭和五一年度固定資産価格を二九〇万〇八〇〇円とすべきところを二九〇〇万八八〇〇円と決定評価し、その旨の固定資産価格決定通知書を出したことは認め、その余は争う。すなわち、

(一) 右当初の評価決定は入力票記入の際の過誤であり、後日重大な錯誤があることが発見されたので、仙台市長は昭和五一年一二月二一日右評価格を二九〇万〇八〇〇円と修正して、固定資産課税台帳に登記するとともに本件土地の当時の固定資産税納税義務者である訴外有限会社米沢地所にその旨通知した。

(二) 仙台市においては、不動産の登記の際には、登録免許税の徴収に必要を生じた場合に登記所からの市長に宛てた固定資産価格決定通知書請求書を持参した登記申請人あるいはその委任を受けた者に対して固定資産評価証明書を交付する取扱いとしており、本件の場合、固定資産価格決定通知書を訴外佐藤馨に交付したことはない。

(三) 仙台市固定資産評価員及びその補助員は、本件土地について実地調査を行い、現地を確認して集成図を作成している。

(被告加藤)

1 請求原因1は争う。被告加藤は、昭和五一年五月頃訴外八木沼邦男及び訴外伊藤に対し、本件土地につき、訴外伊藤のために次の条件で担保を設定することを承諾したにすぎない。

(一) 債権極度額は一〇〇〇万円であること。

(二) 訴外伊藤が当時事業資金として県信連から受けることになつていた一〇〇〇万円の融資が実行されるまでの一時的な担保設定であること。

(三) 以上のこと以外に被告加藤は何らの負担を負わないこと。

(四) 担保設定の相手方は銀行等の金融機関であること。

2 同2は争う。被告は昭和五一年五月頃訴外伊藤振出の最初の額面一〇〇〇万円の約束手形に保証するとの意思で裏書したことはあるが、同年六月頃更に二通の約束手形に裏書したのは、右最初の約束手形を書替えるために行つたものにすぎない。

3 同3及び4は不知。

4 同5は、被告加藤が無資力であることは認め、その余は不知。

三  抗弁

(被告加藤)

1 仮に原告と被告加藤との間で本件根抵当権設定契約が成立しているとしても、被告加藤は請求原因に対する答弁1(被告加藤分)記載の条件の下でのみ右契約を締結する意思であつたのであり、極度額、設定の相手方等の重要な点において内容の異なる本件根抵当権設定契約の締結には、要素の錯誤がある。

2 仮に右錯誤の主張が認められないとしても、訴外伊藤は右のような条件付きであるものと被告加藤を欺罔して本件根抵当権設定契約を締結せしめたものであるから、被告加藤は原告に対し、昭和五五年六月三日の本件口頭弁論期日において右契約締結の意思表示を取消す旨の意思表示をし、それは同日原告に到達した。

四  抗弁に対する答弁

本件根抵当権設定契約締結の取消しの意思表示の点を除き、争う。

第三証拠関係<略>

理由

一  請求原因1(本件根抵当権設定契約の締結等)、同2(被告加藤の連帯保証)及び同3(訴外伊藤及び訴外会社に対する合計三〇〇〇万円の本件貸付)は、<証拠略>によつて認めることができ(被告国、同仙台市との関係では原告が本件土地につき本件根抵当権設定登記を経由したことは争いがない。)、右認定に反する証拠はない。

二  訴外会社及び訴外伊藤から支払われあるいは天引された約定利息のうち利息制限法の制限を超える分を元金に充当すると、原告の前項の貸金の残元金が訴外伊藤に対し一八九三万三〇八一円、訴外会社に対し九五五万七二八九円になることは、原告において自認するところである。

三  <証拠略>によると、現在、訴外会社の代表者である訴外伊藤は行方不明であり、被告加藤は無資力であることが認められる。また、<証拠略>によると、本件土地の現況は全体として幅員数メートル以下の私道となつており、固定資産評価上は、宅地の一〇分の一の評価の扱いを受けており、昭和五四年現在で二九〇万〇八〇〇円と評価されていることが認められる。

これらの事実によると、原告は、本件貸付の前記残元金合計二八四九万〇三七〇円のうち相当部分を回収することができないこととなると推認され、その部分の金額に相当する損害を被つたと言うべきである。

四  原告は、右損害は被告国及び同仙台市の公務員の過失ある違法な職務行為によつて生じたものである旨主張するので、この点について検討することになるが、まず、原告が本件根抵当権設定契約を締結し、本件貸付をするに至つたいきさつ等について見るに、<証拠略>によると、次の事実が認められる。

1  原告等はいずれも相互に面識のある金融業者であるが、うち訴外鈴木規之は、昭和五一年五月二五日頃、初対面の訴外伊藤から三〇〇〇万円の融資の申入れを受けた。

2  訴外伊藤はその際、右鈴木と面識のある訴外八木沼邦雄を同道し、担保に提供するという本件土地の登記簿謄本及び固定資産価格決定通知書(<証拠略>)を持参した。右登記簿謄本には、地目、地積として宅地三〇九二・六三平方メートルと記載されており、右固定資産価格決定通知書には、本件土地の固定資産決定価格として二九〇〇万八八〇〇円と記載されていて、また、訴外伊藤は本件土地は一坪当たり一五万円程度の価値がある旨述べた。

3  そこで、右鈴木は、日を改めて本件土地の現地を見てから融資するか否かを決めることにし、昭和五一年五月二七日訴外根本良文とともに本件土地の現地に赴いた。現地の案内には訴外八木沼、被告加藤らが立会つたが、本件土地の前所有者の遠縁に当たると称する、右鈴木らが当日初めて面識を得た清井なる者が主に指示説明した。その周囲には住宅が建ち並んでいるなかで、一角に比較的広い空地があり、右清井らはその空地を本件土地であると指示した。

4  右鈴木及び根本は右指示された現地の土地の周囲を一当たり歩いてみたものの、右土地の地図の上での位置、基準となる土地・建物等からの位置関係、右土地の正確な地形、面積、隣接地の地番等を何ら確認しなかつた。

5  その帰途、訴外鈴木及び根本は仙台法務局に立寄つて本件土地及びその周囲の公図を見たところ、別紙図面のような形状になつていた。右鈴木らは公図上61―6の表示が上下二か所にあることに気付かず、上に61―6と表示されている部分のみが本件土地であるものと考え、そして、そこが本件土地の面積に相当する程度に比較的広い面積があるように見えるところから、そこは前記清井らから現地で案内を受けた空地に当たると考えた。

6  以上のような経緯の後、原告等は本件土地には十分な担保価値があると判断して、実質的には三者共同で出資するが、契約主体としては原告を貸主とすることに合意して、本件根抵当権設定契約締結、本件貸付を実行した。

7  ところが、右鈴木及び根本が前記清井らから指示された現地の土地は、現況は南を頂点とする三角形をしており、後日、本件土地より南に位置する、第三者所有の滝道六一番一五〇及び六一番一四七であることが判明した。本件土地は、実際には右現地の土地より北に位置し、その現況は前記三記載のとおりである。

以上の事実によると、現況、適正な評価と相違している本件土地の登記簿謄本、公図、固定資産価格決定通知書の前記各記載が、原告の主観においては、本件土地に十分な担保価値があると判断するに至つた一つの契機になつていることは否めない。

そこで、次に、果たして右のような各書類の記載と原告の被つた前記損害との間に相当因果関係があると言えるかについて検討する。

五  本件土地の登記簿の記載、公図上の形状が現況に合致していない原因等について見てみる。

<証拠略>によると、次の事実が認められる。

1  本件土地及びその周囲は、古くはその大部分が山林部であつたが、昭和四〇年前後から宅地造成が始まり、それに伴つて、滝道六一番六は、昭和四一年以降請求原因6(一)記載のような経過をたどつて地積更正、地目変更、数次にわたる分筆がされ、登記簿上最終的には宅地三〇九二・六三平方メートル、すなわち本件土地となつた(被告国との関係では右の地積更正、地目変更、分筆の経過については争いがない。)。

2  右宅地造成に伴う分筆の仕方は、宅地が造成されるつどそこを部分的に測量して滝道六一番六から区分し、右地番をいわゆる元番として残していくのであるが、滝道六一番六の当初の公図自体が必ずしも正確なものでなかつたため、分筆のたびに、残余の滝道六一番六の公図は実際の形状とはかけ離れていつた。そして、周囲の宅地造成がほぼ完了した段階では、本件土地たる滝道六一番六は、実際には、造成宅地を囲みあるいは横切る道路として残されたのであるが、公図上は、別紙図面のような形状となり、造成宅地に中央部分を削られてはいるが、上下に比較的広い面積を残しているかに見えるようになつてしまつた。

3  本件土地の公図の上下二か所に61―6と表示されているのは注意的な措置であつて、図面を子細に見るとその上と下とはつながつており、全体として一筆の土地であることが分かる。

4  滝道六一番六から分筆された各土地については、公図上の形状と現況とは概略において一致している。また、公図上本件土地の中央部分にくい込むような形に記載されている滝道六一番一四九の地上には比較的高い集合住宅が数棟建てられており、周囲から一見して目につく存在である。

六  ところで、地租徴収のために作成された沿革を有する土地台帳附属地図を承継したいわゆる公図は、現在登記所において保管されているものの、不動産登記法一七条所定の地図ではなく、現地復元性に重点をおいていないものであり、特に山林部についてのそれの正確性は相当程度限定されたものであることは公知のところである。とは言つても、右一七条地図が整備されるまでの間(それが極めて遠い将来のことであることも公知のところである。)、実際それに代るものとしての機能が期待されており、現実の不動産取引においても不動産の位置、形状等を確認するうえで重要な資料とされており、登記所においてもそのことを認識したうえで、公図を閲覧等に供しているものと解されるから、例えば公図上他の土地と取り違えて地番が表示されているとか、現実には存在しない土地が記載されているとかいつたことのために閲覧者等に不測の損害を与えたような場合は、事実関係のいかんによつては、登記所(国)の損害賠償責任が問題となり得る余地があると言うべきである。

しかしながら、本件の場合は、訴外伊藤から融資の申込みを受けた原告等は当初、右訴外人の持参した本件土地の登記簿謄本、前記固定資産価格決定通知書を見、また本件土地は一坪当たり一五万円程度の価値があるという同人の話を聴いたものの、日を改めて現地を見たうえで融資するかどうか決めることとし、現地に臨んだが、滝道六一番一五〇及び六一番一四七の各土地を本件土地として指示されて、その帰途本件土地の公図を見たところ別紙図面のような形状となつており、その上部に61―6と記載されている部分が比較的面積が広いようになつているところから、そこが本件土地として指示された現地の土地に当たると判断したというのである。そして、原告等は、現地の土地の地図の上での位置、基準となる土地・建物等からの位置関係、右土地の正確な地形、面積、隣接地の地番等について何ら確認しないまま、右のような公図を見た後右指示された現地が本件土地であると即断したというのである。

ところが、現地の土地は、南を頂点とする三角形であり、原告等が右土地と思つた本件土地の公図の上の部分は、台形の下部に滝道六一番一九二がくい込んだ変則的な形になつており、わずかの注意をすれば両者の形状が大きく異つていることに気付くはずである。また、本件土地以外の周囲の土地の現況は、概略において公図上の形状と合致しており、また、そこには住宅等が建ち並んでいるのであるから、隣接地等周囲の土地の地番等を確認すれば自分らが指示された現地の土地の位置関係が容易に判明したはずであり、特に、滝道六一番一四九は、公図上は本件土地の上の部分の南にあるところ、同土地の現地には周囲から目につく前記集合住宅が数棟建てられているのであるから、そこの地番を確認しただけでも、同土地が指示された現地の土地の北になり、その位置関係が原告等の見た公図上のそれとは反対になつてしまうことが判明したはずである。更に、本件土地の登記簿を見ると、本件土地はもと山林であつて、昭和四〇年頃から数次にわたつて次々に分筆が重ねられた残余の元番の土地であることが明らかであり、本件土地及びその周囲の公図の上でもそのことが表われているから、不動産取引に関する若干の知識を有する者であれば、登記簿上の地積等の記載、公図上の形状が現況に合致しない可能性があることを危惧したはずである。

そうだとすると、本件土地の登記簿上の記載、公図上の形状が、原告等の主観においては、現地の土地を本件土地と誤信したことの一つの契機にはなつているとしても、客観的には、通常はそのような判断の根拠たり得ないものであり、右誤信は、本来、本件土地の担保価値についての訴外伊藤の過大な説明、前記清井らの誤つた現地指示、本件土地の位置確認等に関する原告等の極めて不十分な調査に帰せられるべきものである。したがつて、本件土地の登記簿の記載、公図上の形状と、原告の被つた損害との間には、法的に有意な因果関係、すなわち相当因果関係は認められないと言わなければならない。

七  仙台市長が本件土地に係る昭和五一年度の固定資産価格を二九〇万〇八〇〇円とすべきところ二九〇〇万八八〇〇円と評価し、その旨の固定資産価格決定通知書を出したことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によると、右の過誤は道路としての補正率〇・一を乗すべきところ、これを落したことによるもので、この過誤を後日発見した仙台市長は昭和五一年一二月二一日地方税法四一七条に基づき右価格を二九〇万〇八〇〇円と修正し、当時の納税義務者訴外有限会社米沢地所にその旨通知したことが認められる。そして、右固定資産価格決定通知書の誤つた記載が、原告等の主観においては、本件土地に十分な担保価値があると判断した一つの契機になつていることは、前記四認定の、本件根抵当権設定契約締結、本件貸付に至る経緯に照らし明らかである。

しかしながら、<証拠略>によると、右固定資産価格決定通知書は地方税法四三六条に基づいて仙台市長から仙台法務局あてに通知したものであることが認められ、右通知は登録免許税の徴収等のために行政庁相互間の連絡といつた性質のもので直接私人に対し不動産の価格を証明することを意図したものではないと解されるから、本来、そこに記載の過誤があつても、特段の事情のある場合を除き、私人に対する関係では、損害賠償責任を根拠付けるまでの違法性を帯びることになるかは疑問があるうえ、原告等の本件土地の担保価値についての誤信は、前記六に判示したように、本来、本件土地の担保価値についての訴外伊藤の過大な説明、前記清井らの誤つた現地指示、本件土地の位置確認等に関する原告等の極めて不十分な調査に帰せられるべきものであることを考えると、右固定資産価格決定通知書の誤つた記載についても、原告の被つた損害との間で法的に有意な因果関係、すなわち相当因果関係は認められないと言うべきである。

八  被告加藤主張の各抗弁については、これらを認めるに足りる証拠はない。

九  以上の次第で、原告の被告加藤に対する請求は、すべて理由があるからこれを認容し、また原告の被告国及び同仙台市に対する各請求は、公務員の各違法行為についての主張等その余の点について判断するまでもなく、理由がないと言うべきであるから、これらを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩渕正紀)

物件目録<略>

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